●枕の大きさについて
年齢、体形、寝姿、習慣、睡眠中の体の動きなどの個人差や枕の形や中材の種類、敷きフトンやマットレスの硬軟、寝具の様式などさまざまな要素が影響する。このことは枕の高さについては特にかかわりが多い。ここではこれまで多くあった坊主枕(くくり枕、丸枕)、現在多く使われている平枕(洋枕)について記述する。
昭和32年〜35年ころの長野県での調査(太田久枝)によると坊主枕(くくり枕)は児童で76.8%、成人では都市で88.8%、農村で75%であり、坊主枕が主流であった。現在は寝具の洋風化や体型の変化もあってほとんどが平枕となった。また枕の寸法についても大型化の傾向が強い。


(1) 長さ
特別な形でなく坊主枕(くくり枕、丸枕)や平枕(洋枕)の場合は肩幅あれば寝られるが、これに10cm以上を加えた長さが使いよい。50〜70cmあれば頭が枕から外れることは一般的にはない。坊主枕について前記の太田久枝の昭和32年〜35年の長野県の調査では、成人で平均33.4cm、児玉松代の昭和37年の広島県の調査では、成人で40±8.9cmとある(下表)。
○年齢別にみた枕の大きさ(大学生とその家族の調査)
表29 児玉松代の調査 (昭和37年)

年齢(才) 0〜4 5〜9 10〜14 15〜19 20〜
人員 14名 5名 27名 54名 228名 328名
タテ (幅) cm 21±0.7 25± 8.3 26±6.2 25±4.0 26±6.0
ヨコ(長さ)cm 30±3.1 37±11.8 38±4.8 38±4.8 40±8.9

カッコ内の幅、長さは筆者記入。
現在は丸枕、平枕とも上記の長さよりはやや長い寸法のものが多い(白崎)。
(2) 幅
坊主枕では20cm以上、平枕の場合は肩先をふさぐような姿勢となるので、坊主枕より10cmほど広い方がよい。坊主枕の場合は詰め物の充填率によって幅を調整する(白崎)。
(3) 高さ
枕の高さは、枕がなくても寝られる人、高い枕が好きだという人、慣れた枕でなければ眠れない人など、体形、寝姿、習慣などによる個人差があり、また敷きフトンやマットレスの硬軟なども大きく影響するので、高さを決めるには多くの問題点を解決しなければならない。
1)高さの実態調査
○使用中の枕の高さについて最初に調査したのは太田久枝で、長野県の小学生(男女)5・6年生2,040名(昭和32年調査)と、成人(男女)では農村(男女)100名、市内(男女)100名(昭和34年調査)についてアンケート調査した報告によると
1) 表30  小学生の使用中の枕の高さ(太田久枝)

枕高cm
枕高cm   枕高cm
4 1.45 12 6.38 20 4.10
5 5.77 13 3.51 21 0.06
6 6.39 14 2.15 22 0.10
7 9.46 15 11.70 23 0.18
8 12.30 16 0.84 24 0.14
9 7.03 17 0.49 25 1.40
10 24.77 18 0.62 26〜30 0.38
11
2.36
19
0.06    

2) 表31  成人の使用中の枕の高さ(太田久枝)
枕高cm 市内% 農村%   枕高cm 市内% 農村%
4     11 5.5 22.1
5     12 8.1 -
6 2.7 3.7 13 - 3.7
7 135. 15.3 14 - -
8 27.0 15.3 15 8.1 15.3
9 8.1 7.7 不明 8.1 4.8
10 18.9 22.1      

成人の枕では農村都市とも6〜15cmの中にあるが農村のほうがやや高い傾向にある。都市では8cmと10cmが、農村の方は10cm、11cmが多い。
 太田久枝の前述の調査のように坊主枕が多い時代であり、高さについても現在よりやや高めのものが使用されていたようである(白崎)。
○ 年齢別にみた枕の高さ
表32 対象:広島市内外の乳幼児、小学生とその家族、中高生(児玉松代)


年 齢 人員 見かけの高さ
(1)
cm

使用中の高さ
(2)
cm

見かけの高さと
使用中の高さの比
(1)/(2)×100
0〜 4 51 2.7±0.3 1.9±0.2 70.4
5〜 9 45 7.0±0.3 5.0±0.4 71.4
10〜14 53 8.8±0.3 6.4±0.3 72.7
15〜19 43 9.5±0.3 6.8±0.3 71.6
20 64 11.3±0.4 8.1±0.3 71.7
年齢別の高さには相違があるが、使用中の高さと見かけの高さとの比では年齢ごとの差は少なくすべて70.4〜71.7%の範囲にある。
2)官能検査による枕の高さ
・宇山 久の報告(1958年)
○実験方法
被 験者  健康な男女各50名宛計100名、年齢17才〜53才。
実験用枕 1cmごとに高さが調節できるラシャ張り木製枕を考案し使用した。
実験    被験者の左右外耳孔を結ぶ線を枕の中心に引いた線に一致させる。
      各人が快適と感じた枕の高さを調べた。
成績    快適は大部分は6〜10cmの間であり、8cmがもっとも多い。

表33 快適な高さ(cm)(宇山 久)

\高さ 5 6 7 8 9 10 11 12 13
1 4 8 17 8 9 2 0 1
2 8 9 20 3 6 2 0 0
3 12 17 37 11 15 40 1

表34 許容範囲(cm)(宇山 久)
\許容範囲 0 1 2 3 4
3 16 28 2 1
4 13 25 6 2
7 29 53 8 3

快適な高さは8cm(37%)、7cm(17%)、10cm(15%)、6cm(12%)、9cm(11%)、11cm(4%)、5cm(3%)、13cm(1%)で大部分は6〜10cmの範囲であり8cmが一番多い。
許容範囲は2cm(53%)、1cm(29%)、3cm(8%)、0cm(7%)、4cm(3%)2cm以下が大部分を占めている。
・峯崎フミコらの報告
峯崎フミコらは1cmのベニヤ板を重ねて枕の高さを変えて、女子短期大学生(20才前後)40名について測定し報告をしている(1969年)。
これによると仰臥位ではちょうどよいとした高さの平均値は5±1cmであり、横臥位では6.8±0.9cmがちょうどよいとした高さの平均値である。
前記宇山と差があるのは、宇山の被験者は年齢層は17〜53才と年齢層が厚く、峯崎らの被験者は20才前後と若い年齢層であったこととも思われる(白崎)。
3)筋電図からみた枕の高さ
・峯崎フミコの報告(1969)では、被験者の23〜50才までの女子5名に対して枕の高さ0〜10cmまで変え測定して、頚や肩の筋肉が一番リラックスしている状態は仰臥位で6cm、横臥位で8〜10cmであったとしている。
峯崎フミコは前記の官能検査・筋電図・X線撮影(後述)による測定から見て、日本人女子の標準体型では仰臥位で5cm前後、横臥位で7cm前後が枕の適当高としている。
・児玉松代の報告児玉松代は枕の高さを、なし、3、6、9、11cmに変えて実験をした報告をしている(1976年)。
これによると6cmがI以外の各被験者とも放電量が最も少なくなっている。個人差があるが緊張の少ない高さとしている。

表35 枕の高さ別筋電図所見〔10秒間の放電数(個)〕(児玉松代)
\枕の高さ なし 3cm 6cm 9cm 11cm
被験者\
Ku
114 90 90 90 96
85 102 106 194 204
146 122 121 162 172
Ki 188 185 127 162 210
163 160 122 208 178
116 130 120 142 224

・太田久枝の報告(1987年)
枕の高さが適当であれば頭を左右に動かした時でも筋活動量は少ないとして、被験者2名(男性50才代)による実験結果を報告している。
図17 ちょうどよい枕高に対しての筋電図の比較(太田久枝)4) 脳波から見た枕の高さ
児玉松代の報告(1976年)によると、なし、3、6、9、11cmと枕の高さによる影響をみると、6cmの時が最も頚部の安定がよいのが多いとしている。

表36 枕の高さ別脳波所見〔10秒間平均周波数(・)〕(児玉松代)
\枕の高さ なし 3cm 6cm 9cm 11cm
被験者\
Ku

10.0

9.5 9.5 9.9 9.2
9.5 11.1 8.8 9.3 9.2
12.0 12.0 11.0 11.0 12.0
Ki 11.0 10.5 9.6 10.8 10.5
11.0 10.2 9.0 9.5 9.5
9.5 11.0 10.0 9.5 11.0

脳波は精神状態が安定していて外部からの刺激のない状態ではα波(8-13・)が現われるが、外部からの刺激によって精神状態が緊張すると高い周波数のβ波(13〜30・)が出現する。適当な高さの枕を使用した場合には精神の安定が得られ不適当な高さの枕を使用した場合には刺 激によって精神状態が緊張するので、測定した脳波の単位時間内の平均周波数を見たり、周波数の高い部分、低い部分などの分析をすることによって精神の安定度を知ることができる(白崎)。
5)枕の高さと血圧、心拍数、呼吸数、心電図について
枕の高さが循環器や呼吸器の働きに何らかの影響を与えることは想像されるが、これらについての研究報告がある。
・宇山 久の報告(1958年)
○試験方法
被験者は健康な成年女子5名で、各人が快適と感ずる枕で30分間安静後、血圧、呼吸数、脈拍数を測定、次いで15cmの高い枕を使用して直後から3、5、7、10分と血圧、呼吸数、脈拍数、心電図を測定、更に枕を除いた無枕で同様な項目について測定、最後に快適な枕に戻して前回の各項目について測定している。
○試験成績
イ) 血圧、脈拍数、呼吸数の変化
表37 血圧、脈拍数、呼吸数の変化(宇山 久)
枕 高 15cm 枕高 0cm
氏 名   枕高快適 3分 5分 7分 10分 3分 5分 7分 10分 枕高快適
  血圧 112 115 118 114 114 114 114 115 112 112
H.T. 80 84 84 84 82 82 78 82 80 82
  脈拍数 72 74 71 70 69 65 67 67 67 72
  呼吸数 17 18 18 18 19 20 17 17 17 18
  血圧 124 125 125 124 125 120 125 120 126 124
C.S. 64 70 74 72 70 70 68 74 64 64
  脈拍数 74 75 72 72 71 77 72 72 73 74
  呼吸数 19 17 20 20 18 21 20 20 20 19
  血圧 108 110 113 110 115 112 112 112 110 110
C.F. 58 70 70 70 74 70 70 70 70 68
  脈拍数 58 61 61 60 60 58 59 59 57 58
  呼吸数 18 21 18 19 20 16 19 18 18 18
  血圧 106 106 110 110 111 108 108 106 106 106
Y.T. 50 50 46 46 46 44 44 44 44 44
  脈拍数 67 72 72 70 67 64 65 62 59 62
  呼吸数 17 20 23 23 22 20 20 20 20 21
  血圧 112 118 122 122 112 115 110 110 110 112
M.H. 52 54 54 56 58 46 42 44 50 52
  脈拍数 68 73 72 76 73 63 63 63 63 60
  呼吸数 23 24 23 22 23 22 21 20 19 22

5例平均すると、枕を高く(15cm)すると血圧は最高、最低ともにやや上昇、脈拍数はやや増加傾向となるが、呼吸数に変化はない。枕を除いた場合は最高血圧は変わらないが、最低血圧は一過性に低下し、やがて元に戻る。他の項目では大きな変化はない。
即ち枕を高くした場合、頚部での強い屈曲が交感神経、迷走神経、頚動脈洞に作用して、交感神経性トーヌス優位となり、脈拍数の増加、血圧の上昇を起こし、枕を除くと頚部の屈曲がなくなり、血圧、脈拍数はもとにもどったとしている。
図18 血圧・脈拍数・呼吸数の変化(5例平均)(宇山久)ロ)心電図では各5例の平均値は各例すべてに異常心電図は見られなかった。枕の高さの変化によっての顕著な変化は見られなかったが、高い枕の場合と枕を除いた場合との比較では、主として胸部誘導では枕を高くした場合にはRは高いがTは高くなく、枕を除いた場合はRは低いがTは高くなる傾向が見られたとしている。
表38 心電図の変化(5例平均)(宇山久)

 

 

 

 

 

6.8 7.1 6.5

R1 3.7 3.9 3.6
9.0 9.0 8.8 R2 7.4 7.4 7.2
5.2 5.0 5.0 R3 10.4 10.5 9.8
3.4 3.4 3.2 R4 12.4 13.2 12.7
3.7 3.6 3.6 R5 12.2 11.1 11.6
1.2 1.0 0.8 R6 9.4 9.8 9.8
PQ 0.17 0.17 0.18 S1 - 8.2 - 8.4 - 7.5
QT 0.38 0.37 0.37 S2 -15.2 -14.9 -14.2
QRS 0.07 0.07 0.07 S3 - 9.4 - 9.5 - 9.7
R−R 0.83 0.80 0.83 S4 - 5.2 - 4.9 - 4.6
P巾 0.08 0.08 0.08 S5 - 2.4 - 2.8 - 1.8
P高 2 2 2 S6 - 0.6 - 0.5 - 0.6
-5.4 -7.2 -6.7 T1 - 0.8 - 1.6 - 1.6
2.4 2.6 1.9 T2 4.0 4.3 4.4
6.5 6.1 6.4 T3 5.2 5.2 5.8
TR -2.9 -2.8 -2.7 T4 5.2 5.3 5.5
TL 1.8 1.9 1.9 T5 5.1 4.9 5.2
TF 2.6 2.7 2.7 T6 4.1 4.0 3.8
単位:PQ,QT,QRS,R−R,P巾はSec. その他はmm.

宇山は交感神経の緊張はTを低くし、副交感神経の緊張はTを高くするという研究者の報告を紹介し、睡眠時に副交感神経の亢進、交感神経の減退があることから、あまり高い枕は睡眠には不都合であるとしている。
・峯崎フミコらの報告(1972年)
○試験方法

被験者 試験A 成人女子2名(57才、28才)
試験B 成人女子3名(57才、28才、21才)
成人男子1名(50才)仰臥姿勢
試料

高い枕(市販の高さ15cmのもの)
適当高の枕(試作枕仰臥時5cm)

試験は次の順序で組み合わせて測定した。
A. 適当高の枕(10分)→高い枕(12分)
  適当高の枕(10分)→枕なし(12分)
B. 適当高の枕(12分)→高い枕(12分)→適当高の枕(12分)
(適当高の枕の時の脈拍、血圧値は前後の平均値とする)
  高い枕(12分)→適当高の枕(12分)→高い枕(12分)
(高い枕の時の脈拍、血圧値は前後の平均値とする)

Bのイ、ロの方法をとったのは被験者が就床後の脈拍、血圧の時間的変化が認められているので、前後の平均値によって時間的変化による誤差をなくするとしている。
○結果
Aの試験では枕の高さの相違が脈拍、血圧に如何なる影響を与えるかについては両被験者ともバラつきが多くはっきりした傾向をつかむことができなかったとしている。
Bの試験では被験者の個人差はあるが、高い枕の場合に脈拍、血圧ともに高い傾向が見られたとしている。
また今回のように動脈系のみを見た場合は、実験によって顕著な相違は見出し難いのは、貯溜血液は静脈系75%に対して動脈系25%であること、寝た場合は基礎代謝量が減り、心臓の負担が減るので、動脈の働きがあまり問題でない。静脈は静水力学的影響を受けやすいなどの理由であり、また被験者の順応性も考えられる。今後は静水力学的な考えから静脈圧の測定をし静脈系との関係を見たいとしている。
6)枕の高さと頚椎骨のX線所見
枕の高さが頚椎骨の位置の変化に影響のあることは容易に想像されることである。これらのついての研究報告がある。
・峯崎フミコらの報告(1968年)
被験者(50才女子)での観察では、枕の至適な高さは仰臥時で6.0cm、横臥では8.0cmであるとしている。
仰臥位での頚椎のX線写真では枕なしでは第2頚椎骨と第3頚椎骨の棘突起が開いており、至適高(6.0cm)では各々の頚椎骨は平均した自然の開きをしている。高過ぎる枕でも頚椎骨の第2と第3の間が開いてくる。横臥位では枕なしでは頚椎骨の第6と第7あたりと第1胸椎に湾曲があり、8cm〜10cmでは割に自然の状態である。このように頚椎や胸かく部での不自然な状態では椎骨を貫通する血管や神経を圧迫する結果となり、不適当な枕の高さによる寝心地の悪さを理解する手がかりとなるとしている。
・太田久枝の報告(1987年)
被験者(63才、42才、36才、20才の女性4名)の枕の高さを変えながら頚椎の全長を直立時と横臥時を比較観察をしている。寝る姿勢では立位の時よりも頚椎の全長は短くなる。この縮み率は至適の枕の高さの時は個人差はあるものの最も少ないとしている。太田が他の1名の女子の被験者での実験では高枕で逆に若干伸びたということで個人差のあることが報告されている。
表39 枕の高さと頚椎の縮み率(女子)(太田久枝)
\年齢   63 42 36 20
枕の高さ 立位 100% 100 100 100
枕なし   32.0 5.0 10.0 13.4
低い枕   30.0 10.0 8.0 10.0
至適な高さの枕   2.2 10.0 8.0 0.0
高い枕   11.8 12.2 12.8 13.0

太田はまた頚椎のわん曲(頚椎弧)の変化についても観察し報告している。
直立位では頚椎は前方にゆるやかにわん曲していて椎体間の間隙はどの被験者もほぼ同様の状態であるが寝る姿勢では枕の高さによってこのわん曲の状態が変化をする。
枕なしの時では頚椎全体がほぼ直線を示し、頚椎間はやや詰まった感じとなる。低い枕の時は頚椎はやや後湾して、わん曲の強い部分は個人差があるが、胸椎側の6、7頚椎骨の間の部分が目立ち、高齢者の場合では更に5、6頚椎骨の間の部分にも認められた。至適の高さでは後湾の度合いは更に進み弱いS字状が見られ高枕の場合は頚椎が伸びる傾向にある。頚椎間の開きは若年層以外の場合脊椎側で大きくなっている。
・・での所見で至適な高さの枕の場合では頚椎の形状は全体がなだらかな自然な湾曲を示している。
7)MRI(磁気共鳴診断装置)による所見
X線の場合は骨のようにX線を透過しないものが影として写し出されることに対して、MRIでは神経、筋肉、軟骨など軟部組織も写し出すことができる。これは強力な磁場の中に水素原子をおくとその中の陽子が磁気に共鳴して磁力に強弱ができることの原理に基いて開発された装置で生体内にいろいろな形で存在している水素に磁力線を照射してその分布状態を図形化することによっていろいろな臓器や組織の状態を知ることができる。
よりよい枕作りをするためにもこれから期待されるものである。
・佐藤公治の研究報告
○実験方法
被 験 者 健常者9名(24〜49才、平均33.4才、男7名、女2名)
供 試 枕 枕なし、高い枕(ポリエステル入、非加重時の高さ215┝)
      低い枕(羽毛入、非加重時の高さ175┝)、試作枕A・B
     (ピーズ、ポリエステル、羽毛の組合せ枕)
M R I SIMENS社製、MAGNETOM 1.0T
測定部位 第1頚椎(以下C1)〜C7の頚椎前湾角、第1胸椎(以下T1)〜T9の胸椎後湾角および後頭結節(以下EOP)C3、C5、C7、T3のMRI台底面からの距離、ならびに頚椎部で一番動きの多いC5高位における脊柱管内の脊髄の位置。
○成 績
脊椎前湾角は枕なしと比べると高い枕は前湾が消失し、胸椎後湾角は高い枕ほど増強する。EOP、C3、C5、C7、T3の距離は高い枕ほど大きい傾向で変化の程度は部位によってまちまちである。また性別、年齢よる差や個人差の寄与率高く認められた。
頚椎の脊柱管内で脊髄が中央に位置しているかどうかについては、脊柱管が広い健常者ではどの枕でも問題ないが、頚椎症、頚椎椎間板ヘルニアなど頚椎間狭窄のある場合はあまり高い枕
では頚椎は後湾となり、更に椎間板や骨棘が突出していると脊髄が圧迫され、枕なしでは頚椎の前湾が増強されて、椎間関節が狭くなって神経根を圧迫するので、このような疾患のある場合は頚髄のリラックスした位置の許容範囲が狭いので至適枕の選択が必要である。
・沖野光彦の研究報告
枕と睡眠 第8回睡眠環境シンポジウム報告、平成4年
枕と睡眠中の頚椎症の発現に関する研究 睡眠と環境、第1巻第1号、平成5年
臨床医として工場従業員160名および外来患者についての調査結果について次のように報告している。
#014:普通枕  #023:高枕(前屈)  #040:首下枕(後枕)
57才男性、MRI上、C5/6で前方から椎間板ヘルニア、C5/6とC6/7との2か所で後方から黄色靱帯肥厚による脊椎管圧迫を検出(#014、#040)。高枕で狭窄がほとんど消失(#023)していて垂直牽引と同じ効果がでているが、頂部筋肉群は異常に緊張

所見
頚肩腕症候群は中高年では女性は更年期障害、男性では五十肩が多い。
頚椎椎間狭窄は加齢現象で椎間板ヘルニアと黄靱帯肥厚による。
中高年者は第4/5または第5/6頚椎間での狭窄が顕著である。
狭窄部位の数は加齢とともに増加して分節状狭窄像を呈している。
進行度は職業、スポーツ、事故、外傷による頚椎への負荷が影響する。
考察
高い枕は頚椎症の発症を惹起する。
突背している老人では頚部脊椎柱をありのままの固定目的(整形外科)では個々に枕の高さを決める。
硬めのマットレスの上では60才前後以上の年代では側臥位で就寝の時、下方の上肢がしびれる頻度が高い。
頚椎への負荷は枕の高さとマットレスの硬さ厚さは相対的に関連する。
枕の高さが頚椎位置で8cm後頭部位で6cm、枕と顔の角度5度がよいとする他の報告についてはさらにMRIによる形態学的な再検討の余地があると思われる。
老化による身体上の制約から見た寝具の開発が必要である。
8)加藤勝也の枕の高さの決め方
睡眠時には頚椎を自然の状態に置くためには、頚椎の曲がり(頚椎弧と名付けている)の深さを測り、枕の高さを決めるとしている。
年齢別、性別にみた頚椎弧の深さについて次のように記述している。
(なぜ、人は枕をするのか、加藤勝也 立風書房 1995年)
女性(被験者 405名)は年齢に関係なくほとんどが頚椎弧は2.5〜4.0cmであり、男性(被験者 131名)も年齢に関係なく3〜5cmとなった。
また男性では年齢に関係なく5.5cm 以上の時、女性でも年齢に関係なく4. 5cm以上の時には猫背タイプであるとしている。この猫背タイプの人は被験者の男性で16%、女性では7%で、男性の場合若い層に多く、また高齢者では男女とも7cmと脊椎の湾曲が固定化して猫背が多くあったとしている。
表40 年齢と頚椎弧の深さ(加藤勝也)
男性(131名)

  \深さ
年齢\
2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 合計
10(代) 2 1         3
20 2 1 3 1     7
30 1 11 5 5 2   24
40 1 12 11 8 3 1 36
50   14 13 3 4 1 35
60   3 6 8 1 2 20
70 2 1 2 1     6
80              
2 44 39 29 12 5 131

女性(405名)
  \深さ
年齢\
2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 合計
10(代) 4 3 2       9
20 12 48 11 3     74
30 9 24 12 1     46
40 8 69 26       103
50 6 62 36 2 1   107
60 3 25 25 3 3   57
70 4 2 1 1     8
80 1           1
42 235 114 9 2 3 405
9) 頚椎の正常可動域について
頚椎はその大きさの割には重い頭部を支えているので、頭頚部の安定のために果たす頚部諸組織の役目は大きい。
・骨格
頚椎は7個の骨からなっており、ゆるやかな前湾状となっている。
前湾の程度は骨の傾きによるもので、これが垂直に近い程湾曲少なくなる。正常な人でも前湾消失が7%、反対に後湾消失が2%あるとの報告(Rochtmanら)や顎を引くだけで前湾消失の報告(Finemanら)もあるので湾曲度の変化を過大に評価することはできない。
一般に頚椎の正中位は前湾が正常であるが、前湾が固定するのは40代に入ってからであり、若年層では正常でも前湾消失や後湾位をとることもある(森)。枕に関するアンケート調査(白崎)で40代以下の若年層において「どんな枕でも寝られる」との回答が66%であり、50代では44%、60代では41%となっている。これらは若年層ほど椎間板の弾性が大きく対応も柔軟なことによると思考される。
頚椎骨の刺突起は第2と第7が大きい、特に第7頚椎骨は頚を前屈すると突出するので分かり易い。それでこの部は枕の高さを図る時の一応の目安ともなっている。
第3から第5までの刺突起は後屈時に刺突起が互いにぶつかることを減じて動く範囲を広げると共に筋の付着面積を増加する効果を果たしている。
1. 後頭 2. 蝶形骨 3. 後頭骨底部 4. 大(後頭)孔
5. 第一頚椎(環椎):椎体と棘突起がなくゆびわ状、後頭骨の後頭顆にゆりかごように作用するのでアトラス(環椎、アトラス神が天を支えている)の名がある。
6. 第二頚椎(軸椎):頭の回転がこの軸椎を中心ににして回ることからこの名がある。
7. 第三頚椎 8. 第四頚椎 9. 第五頚椎 10. 第六頚椎 11. 第七頚椎(隆椎)
図22
1. 顎二腹筋の後腹 2. 胸鎖乳突筋 3. 僧帽筋 4. 鎖骨 5. 斜角筋隙 6. 胸鎖乳突筋の鎖骨起始
7. 胸骨柄
図23
成人の頚椎全体の動きは前屈60°、後屈50°である。
頚部の筋が最も緊張が少なくリラックスした状態であるための各頚椎骨の動きの屈曲度範囲は(C:頚椎、T:胸椎、カッコ内は屈曲度)C2-3(5〜7°)、C3-4(8〜12°)、C4-5(7〜11°)、C5-6(10〜17°)、C6-7(8〜16°)、C7-T1(7〜11°)である。平均値ではC5-6(13.5°)、C6-7(12°)、C3-4(10°)、C4-5(9°)、C2-3(6°)の順に動きの角度が大きい。頚部がリラックスした状態にあるためには各部がこの屈曲範囲内のあることが望ましい。
頚椎骨の中でC1は頭部に、C7は胸椎の中に入る構造なので、C2〜C6特に屈曲範囲の大きいC5・C6の屈曲は重視されるべきと思考される。回施は左右70°づつあるが、その内の約45°ほどはC1-2の働きである。
・筋肉
筋肉では屈筋群と伸筋群によって屈曲、伸展、側屈、回施運動とともに呼吸筋としての作用をもっている。胸鎖乳突筋、僧帽筋などは走行が分かり易いので、症状を知る上でのよい目安となる。
枕が低すぎると僧帽筋は収縮し、胸鎖乳突筋は伸びるし、高過ぎると僧帽筋は伸び、胸鎖乳突筋は収縮する。
・背臥位での舌骨・甲状軟骨、第1輪状軟骨の位置と頚椎
舌骨はC3、甲状軟骨上縁はC4-5、第1輪状軟骨はC6の位置の当る。
頚部には気管・動脈・静脈・神経など狭いところに集中しているので枕の高さが適当でないと息苦しさや、いびき、頚や肩の凝りの原因ともなり安眠の妨げとなる。
高さについては他に体型、寝姿、習慣、敷の弾性などさまざまな要因が影響するので個人差が大きいことを考慮すべきものと思われる。
10)枕の高さの調節
枕の高さには個人差があるので、自分で作った場合や注文製作品以外で市販の枕を使う時には、自分に合うように高さを調節しなければならないことがある。
市販のものを買い求めて詰め物材の量を加減して調節することは、面倒なことであるが、高さの調節には以下の方法ですると容易となる。
高くするには
・枕の下か上にタオルなどを置いて高さを調節する。
・中袋があってファスナーのついた側布で二重になっている時は、上の側布のファスナーを開いて中に布などを挟んで高さを調節する。
低くすには
・詰め物を減少するか構造体を削るなど手数がかかる場合が多い。
・詰め物をした中袋にファスナーのある場合は詰め物の加減は容易となる。
・詰め物をした小袋が数個あってこれを加減することによって高さの調節をする。
・高さを調節する機能のついたギヤ式の枕。
などがあるが、体形や習慣による個人差が大きいことや敷フトン(マットレス)の弾性によって適合する高さに差ができるので平常使用中の敷によって使用感を確かめることである。
枕の使用は敷と一体として考えるべきである。
11)枕の変形性
陶器枕、木枕、竹枕、金属性の枕などのように形が定まったもの以外の軟らかい枕や詰め物をした枕は頭をのせるとその重みから枕は低くなる。この見かけの時(使用前の時)の高さに対して変形して低くなった状態をいう。枕の沈み率、沈み分、ともよばれている。
児玉松代の見かけの高さと使用中の高さについて年齢別に調査したものがある(1976年)(前記年齢別にみた枕の高さ参照)。これによると沈み分は27〜30%である。しかし詰め物別に見ると種類による差が認められる。
表41 年齢別枕の見かけの高さと使用中の高さとその比(児玉松代)
   (調査対象:乳幼児、小学生とその家族、中高生)
年 齢 人員 見かけの高さ
(1)
使用中の高さ
(2)
(2)
──×100
(1)  (%)
0〜4 51名 2.7±0.3cm 1.9±0.2cm 70.4%
5〜9 45 7.0±0.3 5.0±0.4 71.4
10〜14 53 8.8±0.3 6.4±0.3 72.7
15〜19 43 9.5±0.3 6.8±0.3 71.6
20〜 64 11.3±0.4 8.1±0.3 71.7

表42 成人・子供(10〜14才)充填物別にみた使用中の高さ(児玉松代)
  例数 見かけの高さ
(1)
使用中の高さ
(2)
沈み分 使用中の高さと
見かけの高さ比
(2)/(1)×100
成人 ソバがら 45 11.1±0.4cm 8.0±0.3cm 3.1±0.4cm 72.1%
もみがら 6 6.8±0.3 5.3±0.3 1.5±0.3 77.9
フォームラバー 9 12.9±0.4 8.7±0.9 4.2±0.7 67.4
パンヤ 4 14.3±1.5 9.3±2.3 5.0±1.5 65.0
全体 64 11.3±0.4 8.1±0.3 3.2±0.3 71.7
子供 ソバがら 40 8.3±0.4 5.8±0.3 2.5±0.3 70.0
もみがら 4 6.5±0.5 5.2±0.5 1.3±0.1 80.2
フォームラバー 5 11.4±1.6 8.8±1.5 2.6±0.6 77.2
パンヤ 4 9.2±0.5 5.8±1.2 3.4±0.8 63.3
全体 53 8.8±0.3 6.4±0.3 2.4±0.3 72.7

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