●側布について
(1) 繊維の種類と水分に対する性能

1) 吸湿性
繊維の吸湿性は、繊維自体のを構成する高分子化合物がもつ「親水基」によるものが多い。この親水基には、ヒドロキシル基(―OH),アミノ基(―NH),カルボキシル基(―COOH),アミド基(―NHCO)がある。これらは水素結合によって水分を吸着させる性質をもっているので吸湿することが容易となる。
?セルロ―ズ繊維(植物性繊維)(綿、麻、亜麻、レ―ヨン、キュ―プラなど)
主成分であるセルロ―ズは多くのヒドロキシル基(―OH)があり、吸湿性は大きい。
?蛋白繊維(動物性繊維)(羊毛、絹、獣毛)
主成分である蛋白質はアミノ酸の重合したものであり、分子中にアミノ基、カルボキシル基、アミド基があり、吸湿性は大きい。
?ナイロン(合成繊維)
分子中にアミド基を、分子の末端にアミノ基、カルボキシル基をもっているが、蛋白繊維より数が少ないので吸湿性は少ない。しかし、合成繊維の中では吸湿性はある方である。
?ポリエステル(合成繊維)
分子の末端だけにヒドロキシル基、カルボキシル基がある。吸湿性はナイロンより少ない。
?アクリル繊維(合成繊維)
アクリロニトルが主成分で吸湿性は少ない。

2) 透湿性
湿気が繊維と繊維の間を通って一方から入り反対方向に抜ける性質で吸湿性の少ない繊維でも、通気性があれば透湿性がある。集合状態が粗ければ植物性繊維や動物性繊維より親水基のない繊維で吸湿性がなくても、透湿によって寝床内の湿度に対応することができる。しかし、吸湿性のない合成繊維のふとんわたのような場合は、押しつぶされて繊維集合体の密度が大きくなると通気性の低下とともに透湿性も低下するので、加重の大きい敷ふとんやパットに使用することはそのままでは適当ではない。
3) 吸水性
繊維と繊維の間に水分が吸収される性質で、繊維自体に吸湿性のない場合でも表面がぬれる状態で隙間が適当であると、毛細管現象で繊維全体の隙間に浸透することが出来るので、発汗が多い時の寝衣の場合は吸湿性、透湿性と共に重要な性質となる。
4) 撥水性
吸水性の逆現象で繊維の表面が水を撥いて侵入を防止する性質で棉花の場合でも新しく採取されたものはロウなどの疎水性の成分が綿繊維の外膜中に含まれているので、撥水性がある。加工することによってセルロ―ズが露出されてから吸湿・吸水性をもつようになる。繊維自体の内部に多くの親水基をもつ羊毛も表面が撥水性のある物質で覆われているので水を撥く性質がある。
5) 水分率
親水性は水分率によって示される。
水分率(%)= 吸湿時繊維重量―乾燥時繊維重量 ×100
乾燥時繊維重量
詳細については各種繊維の性能表を参照
6) 合成繊維の改質
繊維を紡糸する時に別成分を混入して繊維の中に直径0.01〜 3μmの孔を多数作ることにより、天然繊維に近い水分を吸収するポリエステル繊維、アクリル繊維が作られている。これらの加工された合成繊維は親水性に乏しいので脱水が容易であり、乾燥も早いことから、将来多く利用されることと思われる。
(2) 繊維の種類と性能
1)繊維の分類
表4
天然繊維 植物繊維 種子毛繊維 綿、カボック(バンヤ)
靱皮繊維 麻・亜麻・苧麻(ラミ−)・大麻・黄麻(ジュート)
葉脈繊維 マニラ麻・サイザル麻
その他 ヤシ・イグサ・バショウ・サボテン
動物繊維 獣毛繊維 毛…羊毛・カシミヤ・モヘア・アルバカ・ヤク・ラクダ・ウサギ
繭繊維 絹…家蚕絹…野蚕絹
鉱物繊維 石綿(アスベスト)
化学繊維 再生繊維 セルローズ系 レーヨン レーヨン・ポリノジック
キュプラ
半合成繊維 セルローズ゙系 アセテート アセテート・トリアセテート
たんばく質系 プロミックス
合成繊維 ポリアミド系 ナイロン ナイロン6・ナイロン66
ポリエステル系 ポリエステル
ポリアクリルニトリル系 アクリル アクリル・アクリル系
ポリビニルアルコール系 ビニロン
ポリ塩化ビニル系 ポリ塩化ビニル
ポリ塩化ビニリデン系 ビニリデン
ポリエチレン系 ポリエチレン
ポリプロビレン系 ポリプロビレン
ポリウレタン系 ポリウレタン
ポリアルキレンバラオ
キシベンゾエート系
ベンゾエート
ポリクラ−ル  
その他 ポリテトラフルオロエチレン系
ポリ青化ビニリレン系
ポリ尿素系
無機繊維 ガラス繊維   ガラス
金属繊維 金糸・銀糸・銅糸
スチール繊維
炭素繊維
岩石繊維 ロックウール・ロックファイバー
鉱滓繊維 ステッグファイバー
2)各種繊維の性能
各種繊維の機能表・・・衣生活の科学(酒井豊子編)
3) 防虫、防黴性
?よいもの
ポリエステル、アクリル、ポリ塩化ビニール、ビニリデン、ナイロン、ビニロンなどの合成繊維類
?ややよいもの
レーヨン、アセテートなどの再生繊維類
?弱いもの
羊毛、絹、綿など
4) アイロンの適温(℃)
麻、綿(190℃)、絹(140)、羊毛(160)、レーヨン、キュープラ、ポリエステル(110〜150)、アセテート、ビニロン、ナイロン、アクリル(110〜130)、アクリル系、ポリプ ロピレン、ポリウレタン(90〜110)
ただし、繊維組成、厚さ、水分の有無、アイロンの圧力、アイロン使用時間の長短などによって差がある。
5) ドレーブ係数(%)
キュープラトリコット(23.0)、ナイロントリコット(28.0)、絹デシン(30.0)、キュープラデシン(35.0)、ウールモスリン(48.0)、100番綿ブロード(51.0)、不織布(ナイロン65%,ポリエステル35%)(56.0)、40番綿ブロード(59.0)、ポリエステルデシン(60.0)、不織布ナイロン(100%)(72.5)アセテートタフタ(85.5)
6) 熱伝導率(CAl/?2/sec/℃)
水(0.0014)、空気(0.000056)、絹(0.000887)、羊毛(0.000479)綿(0.00014)
7) 通気量 (?3/sec/?2)
綿ブロード(12〜15)、デシン(45〜53)、絹(14匁)(42)、シルクサテン(10〜20)、両面編み(137)、トリコットハーフ(250〜429)などであるが、加工の有無、種類、程度等で差がある。
8)接触温冷感
?温感:熱伝導率が低い、熱容量が低い、接触面積小
?冷感: 〃 高い、 〃 高い、 〃 大
(3) 繊維の成分
1) 綿繊維
最も代表的な種子毛繊維である。産地・品種によって長さ、太さ、色彩、光沢などに差がある。一般に在来種(野生種)は太くて短く、改良種(米綿種)は細くて長い。
主成分はセルローズで親水性のある水酸基が多いので吸湿性、吸水性に富む。セルローズ以外の成分は表面部分にあるので採取の新しい綿には撥水性がある。酸には弱いが、アルカリに強いので弱アルカリ性の洗剤に対しての耐久力があり、性能的にも経済的にもよく、使用範囲が広い。
表6 綿 繊 維
成 分 含有割合(%)
セルローズ 94.0
たんばく質 1.3
灰 分 1.2
ペ ク チ ン 0.9
有 機 酸 0.8
ろう・油脂 0.6
糖 類 0.3
色 素 微量
そ の 他 0.9
セルローズの化学構造
省略

表7 綿繊維の長さと太さ〔J. Text. Inst.,42. S71(1961)〕

綿 繊 維  長 さ(?) 太 さ(μ)
平 均 最 大
インド綿 10〜20 20〜36 14.5〜22
米   綿 16〜30 24〜48 13.5〜17
エジプト綿 20〜32 36〜52 12〜14.5
海 島 綿 28〜26 50〜64 11.5〜13

綿繊維の形態
最外層部の表皮はワックス、ペクチン、脂肪からなっている。
第1次層は主にセルローズで、他にペクチン、蛋白質などからなる。
第2次層(s1〜s3)は綿繊維の主成分で約95%ほどを占めている。この部
は薄い層をしたラメラからなっている。
ラメラはマイクロフィブル(100本ほどのセルロース分子)(5〜6?)からできている。
これらは20〜30°のらせん状構造をしている。

綿繊維の断面
綿繊維の断面は図のように圧しつぶされたようになっていて、図のCとNの部分がいたみ易い。
2) 麻
天然繊維中最大の引張強度があり、綿のように湿ると強くなる。吸湿・吸水性がよい。セルローズが主成分であるが、綿に比べて分子の配列がよい。比較的に熱伝 導率が大きく、吸排湿が速いので清涼感がある。
3) 羊毛

家畜羊の歴史は長く、改良が重ねられて種類も多い。品種よってまた産地によっても羊毛の太さ、長さ、クリンプ、色彩、光沢などに差がある。
軟毛のウールと粗毛のヘァーがある。
羊毛の構造は表皮(キューテクル)と皮質(コルテックス)があり、表皮の大部分は鱗片(スケール)で覆われている。この鱗片は、根本から先端に向って逆方向に積み重なっている。表皮の外側は疎水性のあるエピーキューテクルの層があり、この層は粒子の小さい湿気は通すが粒子の大きい水は通さないので、吸湿性は大きいが撥水性がある。
羊毛のコルテックスは吸水性の多いオルソコルテクスと、吸水性の少ないパラコルテックスとの2相構造なので特有のちぢれを作っている。


羊毛は寝具に使用されている繊維の中では最も吸湿性が高いが、これは主成分のケラチンが関係している。
ケラチンの構成アミノ酸の中にシスチンがみられる。シスチンは次式のような構造をしたアミノ酸で、ケラチン分子にシスチン結合と呼ばれる橋かけ結合を形勢する。
このような橋かけ結合は羊毛製品がしわになり難い役割を果たしており、シスチン結合の還元剤で切断され、酸化剤で再生されることはシロセット加工(羊毛製品に折り目をつける)にも利用されている。

表8 羊毛ケラチンのアミノ酸組成(モル%)
成 分 モル%
シスチン 11.59
グルタミン酸 11.55
セリン 11.41
グリシン 10.12
ロイシン・イソロイシン 10.04
プロリン 6.89
アルギニン 6.88
トレオニン 6.25
アスパラギン酸 5.80
アラニン 5.40
バリン 4.76
チロシン 2.99
フェニルアラニン 2.64
リシン 2.11
トリプトファン 1.02
メチオニン 0.60
ヒスチジン 0.52
100モル中に含まれるアミノ酸のモル数
(被服材料学、森、中島)
4) 絹

絹織物は紀元前2000年前に中国で始められた。更にこの絹織物はいわゆるシルクロードを経て国外へ輸出され、日本へは3世紀ころに、アジア諸国、ヨーロッパなどには4〜5世紀ころに技術が伝わったといわれている。日本では明治末〜昭和15年ころの生産が多くて世界1位であった。
絹は天然繊維中最も長い繊維で蚕(鱗翅目カイコの幼虫)のまゆから作られる。蚕の体内には2本の絹糸腺があって各々の絹糸腺には後部絹糸腺と中部絹糸腺、前部絹糸腺がある。まず後部絹糸腺から分泌された蛋白質のフィブロインは中部絹糸腺に送られここで蛋白質のセリシンによって覆われ、次いで前部絹糸腺で2本の絹糸腺から出たフィブロインは周囲のセリシンによって接着して1本の繊維となって吐糸口から出されてまゆを作る。
蛋白質フイブロンを同じく蛋白質であるセリシンで接着させた構造で羊毛に次いで吸湿性がある。

表9 絹フィブロンのアミノ酸の組成
(モル%)

成 分 モル%
グルタミン酸 0.93
セリン 11.91
グリシン 44.46
ロイシン 0.49
イソロイシン 0.54
プロリン 0.40
アルギニン 0.44
トレオニン 0.98
アスパラギン酸 1.38
アラニン 30.24
バリン 2.09
チロシン 4.88
フェニルアラニン 0.63
リシン 0.30
トリプトファン 0.20
ヒスチジン 0.15
100モル中に含まれるアミノ酸のモル数
(森、中島)
5) レーヨン
木材パルプやリンター(綿の実についている短い繊維)など原料としたセルローズ系の再生繊維でレーヨン、捲縮レーヨン、ポリノジック等がある。吸湿、吸水性がよく、ぬれると強度が低下する。
6) キュブラ
銅アンモン法によって作られた再生セルローズで生産量は少ない。吸湿性はよい。
7) アセテート
木材パルプ・綿実のリンターパルプを原料としたセルローズ繊維で、セルローズのOH基をアセチル基と置換したセルローズアセテートを繊維としたもの。絹様の風味があリ、吸湿性がある。
8) 合成繊維
沢山の合成繊維があるが、枕の側材としての使用は少ない。
1)ポリエステル
エステル結合による合成高分子からの繊維はポリエステルと称される。現在広く利用されているのはポリエチレンテレフタレートからのものである。ポリエチレンテレフタレートは次式によって合成される。
省略
ポリエチレンテレフタレートは融点がナイロン6より高いが(軟化点238〜240℃,融点255〜260℃),ナイロン同様溶融紡糸で繊維とされる。化学繊維の中ではヤング率は大きく絹や綿と同程度である。吸湿性、吸水性が少なく水分率は0.4〜0.5%、ナイロン同様に丈夫な繊維である。
2)ナイロン
アミド結合(−CONH−)を持つ高分子化合物をポリアミドといい、この中の糸状の合成ポリアミドをナイロンと呼ぶ。日本やヨーロッパではナイロン6がアメリカではナイロン66が主である。分子中にアミド基とカルボキシル基をもっているので合成繊維の中では親水性は多い方である。
ナイロンはヤング率は小さいが伸長率の弾性度が大きい。伸縮性の必要とする繊維製品に適している。比重1.14で軽く薬品、かびに強い。合成繊維中では吸湿のある方ではあるが、静電気を帯びやすい。
ナイロン66繊維は溶融紡糸法で作られる。軟化点230〜235℃、融点250〜260℃である。
ナイロン6繊維は溶融紡糸法で作られる。軟化点180℃、融点215〜220・である
3)アクリル繊維とアクリル系繊維
アクリロニトリル単位を主成分とした高分子からの繊維をアクリル繊維、アクリロニトリル単位が重量比で40〜50%に副成分を加えたものをアクリル系繊維と呼んでいる。副成分には塩化ビニルや塩化ビリニデンなどが使われる。
アクリル繊維は羊毛に似た風合いがあるが吸湿性に乏しい。ナイロンと同程度に軽い(比重1.14〜1.17)。
アクリロニトル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、アクリル系繊維は塩化ビニルや塩化ビニデリンがあって難燃性がある。
4)ポリプロピレン繊維
プロピレンを重合させて作られる。比重は0.91で軽い。
5)ビニロン
ポリビニルアルコール(PVA)を熱水溶解して湿式紡糸をして、できた水溶性の繊維に熱処理とホルマリン処理(アセタール化)して耐水性のある繊維とする。合成繊維中では吸湿性が大である。

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