【 枕の生薬 】
草木を薬とすることは紀元前から現代まで、洋の東西を問わず多くの人々によって研究され、広く利用されている。これまでの生薬の有効成分の解明や新しい生薬の発掘など近代の自然薬指向もあって生薬についての一般の人々の関心も深い。日本の生薬は古くから中国の影響を多く受けているし、生薬枕についても同様である。
代表的なものでは次のようなものがある。
1.菊花(キク科、別名 甘菊、料理菊、アキノハナ、イナデグサ、クサノアルジなど)
昔から使われている薬草枕の代表格で、平安時代に中国から伝来した頃からともいう。秋に花を採取、乾燥後詰め物として菊枕が作られた。花にはやや甘苦い味と強い香りがあり、消炎、解熱作用があるので、発熱、頭痛、目の充血、のどの痛みによく、強肝、利尿、抗菌、降圧作用があるという。
菊の種類によっての効能の言伝えもある。
白菊花(甘菊花):肝臓の働きをよくし、目の充血、日の痛みをやわらげる効果が強い。
白菊花(除菊花):鎮痛、鎮静作用が強い。
黄菊花(抗菊花):解熱、鎮痛、目の充血、目の病みをやわげる効果が強い。
野菊花:解熱、解毒によく、消炎、化膿の抑制、抗菌作用がある。
2.ショウブ(サトイモ科、別名 白菖、水菖蒲、泥菖、アヤメグサ、オニセキショウ、生薬名 ショウブ根)
ショウブ根は根茎を健胃剤として使われていたが、悪心嘔吐の副作用があって、現在では内服用には使われていない。
浴用の場合は根茎葉とも血行促進、健胃作舟がある。西洋古代の香料にも菖蒲香があって香りと薬効が知られている。中国では薬枕として前漢の武帝(前141〜前87年在位)の頃からあるといわれている。「香りによって病を治す」ことを基本としている。
3.その他古代から枕に使われている代表的な生薬では
(1)辛 夷(しんい)(神農本草経)
日本名はモクレン(モクレン科)。
生薬名は辛夷で花蕾を採取、乾燥して詰め物とする。芳香薬として頭痛、脳病、鼻疾によいとしている。
(2)佩 蘭(本草再新)
日本名はフジバカマ(キク科)、多年草で全学に芳香がある。
生薬名は蘭草、全学を使用、利尿、通経、解熱、鎮痛、黄疸等に民間薬として使われていた。
(3)甘 松−(本草綱目)【別名 香松(中薬志)]
甘松香(開宝本草)、寛葉甘松、オミナエシ科、強い芳香がある。甘松香は中国西南部の高地草原に自生、寛葉甘松はチベット高山草原に自生、鎮静、鎮痛、脾臓の働きをよくし、健胃作用があるので、胃痛、頭痛、ヒステリーによいとしている。
(4)明代の薬学書「本草綱目」には”豆を枕にすると、不眠が治る”とあり、また唐の詩僧斉心も豆枕の効果をうたい、豆枕も緑豆、小豆、黒豆などではそれぞれ薬効にも違いがあるとしている。
(5)油柑葉(別名 集葉、余甘子葉)(トウダイグサ科)
産地は中国の四川、広東、広西、貴州、雲南などで、秋に採集、乾燥して枕の詰め物とする。味は甘酸で、薬効は皮膚湿疹、庁瘡によく、殺菌作用があるとされている。
(6)中国では昔、枕の中に葉となる詰め物をして、けがの時などこの中から取り出して使用した。琥拍(切り傷、止血に使用)、荊芥(止血、消疹、かゆみ止に使用)、香蒲(ガマ草の雄花粉で止血、消毒作用がある)などがあり、これらは江戸時代日本でも使用された。
(7)精油成分を利用したものは多い。
○莪逑(ガジュツ)(別名シロウコン、ウスグロ)ショウガ科、芳香性健胃作用
○蒼朮(ソウジュツ)キク科、ホソバオケラ、又はその変種の根茎、鎮静、殺菌、カゼ予防作用
○縮砂(シュクシヤ)ショウガ科、さつ果を使用、芳香性、健胃、整腸作用
○益智(ヤクチ)ショウガ科、中国南部に分布、多年生草本、さつ果を使用、芳香性健胃作用
○小豆蒄(ショウズク)ショウガ科、種子を使用、芳香性健胃作用
○橙皮(トウヒ)ミカン科(ダイダイの成熟した果皮)、陳皮
(チンピ)ミカン科、(ウンシュウミカンその他の近縁種の果皮)、茴香(ウイキョウ)セリ科など、芳香性健胃、鎮咳、カゼ予防作用がある。
(8)一般の詰め物にしてもそれぞれ生薬としての効果が期待されているものが多い。ハーブ類についても同様である。
ハーブ類については香枕の部で記述。
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