寝 室

86.寝室の設計
寝室は眠るために使用する部屋であるが、家屋の立地、構造、昼間の多目的な使用、使用する人、好み、家族構成などさまざまな環境条件の違いがあるので求められる寝室としての条件も、幅が広く内容も異なってくる。同じ家であっても夫婦二人の時代、子育ての時代、子どもが成長してから、二世帯時代など時の経過とともに求められる条件にも変化があるし、同じ条件であっても軽重の差が出来る。しかし、共通することはその時々に応じながら、いかにして快適な睡眠環境を作り出すかである。要約すると
○家庭内においてもプライバシーが確保できる個室であること。
○屋外や屋内での騒音が寝室内に入らないこと。
○寝室の内装は音を吸収する構造であり、材質であること。
○日照の調節のためにカーテン、障子、ふすま、雨戸、ブラインドなどの設備のあること。
○温度、湿度、換気、などの寝室内気候の調節ができること。
○広さが適当であること。
○押し入れは寝具類の収納機能を十分に果たせること。
○夜間照明は全体の明暗をする全般照明と、机や枕元などを照らす部分照明とがあれば便利である。
○色彩の調和、便利性、掃除がし易いなど。
○関連する浴室、洗面所、便所などについても便利な位置であることなどがある。その点ホテルの部屋はよく配置されている。

87.寝室気候
室内温度が一定限度以上になると、体熱放散のために呼吸数の増加、体表面の血管拡張などがおこり発汗をする。さらに進むと体がだるくなり、食欲の減退などの誘因となる。また、逆に温度が一定限度以下になると、体温維持のために体表面の血管は縮小し、体は緊張状態となる。室内の適温は20〜25℃ほどが一般的である。27度以上になったり、15度以下になると前述のような違和感を感ずる人が多くなる。
室内湿度は温度とともに快、不快を決定する大きな要因である。同じ高温時でも湿度が低いとしのぎ易いと感ずるし、湿度が高いとむし暑く感ずる。一般に快適と感ずる湿度は相対湿度が45〜65%といわれている。

不快指数は次式で求められる(ただしこの算式では気流については考慮されていない)
不快指数=0.72(乾球湿度+湿球湿度)+40.6 
不快指数75ではほぼ半数の人が、100ではほとんどが不快となる。

気 流空気の流れは温度感覚に影響する。同じ室温でも空気の流れがあると体熱の放散ができてしのぎよいと感ずるし、空気の流れがないと体熱の放散が妨げられるので、うっとうしいと感ずる。
換 気は室内空気の汚染の防止とともに室内気候の調節となる。日常の適切な空気の入れ換えは必要である。外気の汚染がない限り、多くは一定時間窓をあけ外気を入れることで目的は達せられる。
寝室の空気
寝室は閉め切った状態で使用されることが多い。結果として長時間同じ空気を吸うこととなるので、寝室内の空気を汚さないこと、換気に留意することが大切である。
二酸化炭素(CO2・炭酸ガス)
睡眠時の二酸化炭素の排出は男女平均で一時間当たり8.4・と言われている。増加が僅かなので人体に直接影響するほどのことではないが、二酸化炭素の濃度の上昇は寝室内の温度、湿度、臭気などの条件を悪化させるので、二酸化炭素濃度は0.1%以下にすることである。
建物の気密性と一人当りの必要な寝室の広さ(花岡利昌 住居衛生学より)

気密性 自然換気回数 寝室の広さ(部屋の高さ二・四・の時)
木造・木製サッシ 3 約3畳
木造・アルミサッシ 0.7 約4.5畳
コンクリート・アルミサッシ 0.25 約12畳
自然換気が少ないほど気密性は高くなる。
室内で使用するストーブの種類や喫煙でも一酸化炭素(CO)や二酸化炭素は増加する。

揮発性化学物質
寝室に使われている建材、家具、壁紙、布などの接着剤や塗料類、畳、敷物、カーテン、インテリヤ、繊維製品などの防菌、防黴、防虫、防炎などの加工剤類、器具、化粧品に至るまで発生源となるものは多い。また発生される化学物質の種類も多い。清浄なものでも移染によって新たな発生源となるなどさまざまである。
各々から発生する量は僅かでも、全体として、長時間気密性の強い寝室環境内にあるので影響は大きい。

ホルムアルデヒド
日常接する揮発性化学物質の中で単独では最も高い濃度を示すものである。
刺激臭の強い気体で目がチカチカしたり、のどがいがらくなったり、皮膚炎を起こしたりする。
建材、家具、床板などの合板や壁紙などの接着剤に使われている。室内の繊維製品に吸着したりするので影響が多い。新築された室では1〜2年にわたって発生されるとの報告もある。

揮発性有機化合物
数百種もの化学物質がある。種類、量、複合作用などによってさまざまな影響がある。
ハウスダスト
室内にあるダニ(生体、排泄物、死体など)カビ、センイ屑、チリ、土、花粉などの付着物や空気中に浮遊する物質類の総称で、外出着や外気によって入ったり、湿気の多い押入れなどでダニやカビが増殖したり、ふとんの上げ下げや着替えなどによる飛散など、気密性の強い寝室であるだけに影響は他の開放された部屋よりは大きい。
寝室内空気の清浄対策
●換気
 外気が汚染されていない限り、換気は最も容易で効果的である。窓、戸の開放、換気孔、換気扇の使用など、新築建物の時には特に励行することが必要である。
●除湿 寝具・衣類の日光乾燥の励行押入など湿気の多い所はダニ、カビの増殖する所なので換気・除湿は特に注意をしたい。

●その他 化学物質や汚染を発生するような物を寝室内に持ちこまない。防虫剤の使用などは特に要注意。暖房器具は外気を吸排出する密閉型や電熱型がよい。空気清浄機の使用、掃除の励行、禁煙、飲食をしないことなどの配慮が必要である。
88.寝室、寝具の色彩
色は可視光線のスペクトル成分によっておこる感覚で、色は灯がないとみることはできない。寝る時には暗くするので色は影響がないように思われるが、就寝前には寝室、寝具のもつ雰囲気も影響するので適応した色を選ぶことは大切である。色は感覚的なもので物理学だけでは片付けられない面があるので、心理学、生理学的面からも見なければならないが、個人差もあって必ずしもすべてが一定とは限らないし、明度、彩度も関係するが一応の共通性があることは認められている。
○暖色系の赤・橙・黄などは興奮感を与えるので、交感神経が働いて血圧を上げ脈拍・呼吸数を増加させる。
○寒色系の青・緑は鎮静感を与えて心を落ち着かせるので、副交感神経が働いて血圧を下げ、脈拍や呼吸数を減少させる。
暖色系・寒色系とも彩度が低くなると興奮感・鎮静感とも少なくなる。
○濃青、寝室の天井にあると夜空を連想させるので、鎮静効果がある。
○紫色、女性ホルモンを増加させる。
○ベージュ、人肌と同色系なので安心感がある。
などがあげられる。寝室内のカ−ペット、壁、天井、カ−テンなどや、寝具類に利用して有効である。
89.室内温湿度と睡眠の充実度
夏期の睡眠環境を実験室内に再現して実験した今井氏他の研究報告がある。
充足度1度・・・眠気はなく入床しても寝付けない場合
充足度2度・・・眠気が強く眠り続けたい場合
充足度3度・・・よく眠れたと思われるが、なお充実感が少ない
充足度4度・・・充実感のある眠り
充足度5度・・・快眠
起床時の睡眠充実度は温度25℃・湿度75%、28℃・50%がよい。28℃でも湿度が50%ならば充実度はよくなる。
室温28℃以上になると評価は低下する。30℃になると充実度はさらに低下する。
90.音と睡眠
私たちはさまざまな音の中で日常生活を送っている。同じ音でも日中には少しも気にならなかった時計や電気冷蔵庫のなどの音が夜には同じ音でありながら耳障りなことがある。これは日中には他のレベルの高いさまざまな音(暗騒音)があって、これに隠されて感じないでいるからである。夜になるとさまざまな暗騒音のレベルが低くなったり、なくなったりするので、日中感じなかった音も感じるようになるからである。
騒音と睡眠についての長田泰公・公衆衛生院研究報告がある。
○音と睡眠の深さ
睡眠深度0〜3の4段階に区分
40ホン以上になると睡眠に影響がでる。
白色雑音(ホワイトノイズ)=単調な雑音
音の強さを表す単位としてデシベルdBがあるが1000サイクル以外の周波数では同じ強さの音でも人間の耳には周波数の高い音の方が周波数の低い音よりも強く聞こえる。たとえば4000サイクルで約75dBの音圧と50サイクルで約85dBの音はいずれも1000サイクル80dBの音とほぼ同じに聞こえる。dBを人間の耳の特性で補正したのがdB(A)(ホン)である。
○音と入眠時間
騒音の大小と入眠までに要した時間の測定についての報告(大島)によると、30ホンを1とすると40ホンでは1.4倍、50ホンでは1.8倍であるという。
○音と目ざめ
睡眠状態から目ざめまでの時間では30ホンを1とすると、40ホンでは0.8倍、50ホンでは0.55倍となる。
91.寝室の防音
寝室が騒々しくては安眠出来ない。寝室の静かな環境を守るためには壁を厚くしたり、窓を二重にしたりして、さまざまな防音対策が必要になってくる。寝室の設計や改良に当たって使用すべき材料について防音効果の程度を知っておくことは便利である。
音が物に当たってこれを通過したときにその物によって減少された音量を遮音度あるいは透過損失と呼び、数値の単位をデシベル(dB)で表している。たとえば寝室の外側に66ホンの音が当たっても寝室内が40ホンであれば、この窓の遮音度は20dBということである。
92.明るさと睡眠
入床時の部屋の明るさの程度は気になることであるが、これに関する研究は少ない。岡田・梁瀬氏の報告(1981年)があるので引用すると、暗黒では周囲の状況が分からないので不安感が強く、睡眠深度は照度50ルクスの時よりも低い。
一晩の睡眠経過でみると照度30ルクス以下の時では前半期に睡眠深度がよく良質の睡眠深度が得られる。50ルクス以上になると、睡眠の一サイクル目の睡眠深度の深い時間帯が短くなり、2〜3サイクル目に睡眠深度の深い状態が残る。つまり、眠り始めが浅く、朝方に深くなる傾向が見られるので、よい睡眠とはいえない。
また睡眠中の遮光動作では、0.3ルクスでは遮光動作はほとんどなく、30ルクスまではふとんを被るなど寝具による遮光が多い。50ルクス以上になると腕や手を使って遮光するようになり、120ルクス以上では寝具も体も使って顔を覆う動作をとるようになる。
大脳の働きを示すフッリカー値では、50ルクス以上の時は起床直後は値も高いが、起床の40〜50分経過後では大脳皮質の機能回復度は低くなっている。これは眠気の回復度が遅いことであり、午前中の活動に影響が生ずる。
総合評価として入床時の照度0.3ルクスの時が満足度が高い。

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