●睡眠の生理
睡眠に関する研究はここ50年位の間に急速に進められてきたが、未だ解明されていない点も少なくない。
私たちは夜になると眠くなって寝床に入り翌朝になって目覚めるが、睡眠中どのような変化があり、どのような経過をたどっているかについては自分自身で知ることはできない。
(1) 睡眠の経過と状態
睡眠の経過を脳波から見ると次のようになる。
(脳波) (脳波)
低振幅速波(β波 13-30Hz)
低振幅速波 (α波 8-13Hz)
低振幅速波(β波 13-30Hz)
低振幅速波 (α波 8-13Hz)
低振幅複合波θ波 4-8Hz ) 低振幅複合波(θ波 4-8Hz ) ノンレム 睡眠
紡錘波 K複合波 紡錘波 K複合波 ノンレム 睡眠
高振幅徐波(δ波 0.5- 4Hz) 高振幅徐波(δ波 0.5- 4Hz) ノンレム 睡眠
低振幅速波 PGO波 低振幅速波 PGO波 睡眠


うとうと眠り (安静閉眠時) ちょっとの刺激ですぐ目覚める。
すやすや眠り (紡錘波睡眠) ある程度の刺激で目覚める。
ぐっすり眠り 大声で体をゆすって目覚めさせる。
PGO波(ponto-geniculo-occipital wave)
レム(REM) 睡眠に伴う相動現象開始の指標となる。
(2) レム睡眠とノンレム睡眠
睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠に大別される。
1)レム睡眠(REM sleep)
眠り乍ら眼球が急速に動くことから「急速眼球運動」(Rapid EyeMovement)と呼ばれ、その頭文字からREM(レム)と名付けられた。
特徴は
? REM睡眠は80〜110分ごとに繰り返し、朝近くなるに従って時間の間隔は短くなり、同時にREM睡眠の持続時間は長くなる。
? この時に夢を見ることが多い。
? 全睡眠量中成人では約15〜25%で年齢、体質、睡眠時間などにより差がある。
2)ノンレム睡眠(NREM bleep)
レム睡眠以外の睡眠では急速眼球運動がないので、この睡眠期をノンレム睡眠としてレム睡眠と区別している。
生理変化 ノンレム レ  ム
眼球運動 ゆっくり はやい
筋肉緊張 覚醒時より低下 ノンレムより低下
心 拍 おそい はやい、乱れる
呼 吸 おそい はやい、乱れる
血 圧 下がる 乱れる
胃酸の分泌 へる ふえる
尿 量  へる 著しくへる
発 汗 有り 無し
陰 茎 萎縮 勃起
(3) 体内時計と睡眠
現代社会の生活では、多くの人は夜が明け朝になって目覚めてこまごまとした用事を終えて朝食をとり、昼間の日常生活に精を出し、昼食をとり、夕方になって夕食をとり、夜半には眠くなって床に就き睡眠をとる。このようなごく普通の社会人としての動きを1日24時間に割りふりして生活をしている。
また休日には朝寝をしたり、行楽のために早朝に起きたりして、自分の生活設計を立てながら社会人としての快適な日常生活をしている。そして、1日24時間には何の不自由も疑問も感じていない。
しかし、私たちに総ての社会的な生活上の規則がなくなった場合、つまり極地や地下室の生活をして時計などすべての制約をなくした場合にはちょっと様子が変ってくる。
このような条件下では私たちがもともと体内にもっているリズム(体内時計)に従って寝起きするようになる。一定の時間がくると眠くなり、目覚め、腹が空いて食事をとる。これはまた大変快適なものである。しかし、この場合は1日は25時間のリズムで動いている。私たちはもともと25時間を1日としてあるべきところを社会生活上の必要から24時間の生活をしているのである。
またこの1日25時間の中で眠くなる時が2度ある。昼食後に軽い眠気を覚えるのはこの現れである。私たちは軽い昼の睡眠と深い夜の睡眠の2つの睡眠時間を持っているからである。
半日リズムといわれるのはこのことによる。外国旅行などで時差があり、眠られなくなるのは体内時計が社会的(社会時計)な変化についていけずに起きる現象であり、赤ちゃんや老人の眠りが成人と異なるのは、この時代には社会的制約が少なく体内リズムによることが多いからである。
(4) 加齢と睡眠の変化
動物は新生児ほど長い時間眠り、成長するにつれて眠りの時間は短くなる。人間の場合も同様で年齢と睡眠時間には相関が見られる。
1) 睡眠リズムの変化
1) 多相性睡眠(睡眠時間が昼夜1日に2度以上)
新生児 (3〜4時間ごとに目覚めながら1日16〜17時間以上の睡眠)
3 〜4ヶ月 (昼眠4〜5時間、夜眠10時間 計14〜15時間)
6ヶ月〜1才 (昼眠4〜7時間、夜眠6〜7時間 計12〜14時間)
4才 (昼眠3時間、夜眠8時間 計11時間)
老人 (昼眠1〜2時間、夜眠6〜7時間 計8時間)

2) 単相性睡眠(夜眠だけ)
6〜10才 (夜眠10時間)
成人 (7〜8時間)
2) ノンレム、レム睡眠の変化
1)1日の全睡眠時間中のレム睡眠時間の割合
新生児  50%
生後3〜5か月  40%
生後6〜23か月  30%
3〜5才  20%
19〜30才  22%
33〜45才  18.9%
50〜70才  15%
70〜85才  13.8%

成長期ではレム睡眠の割合に変化があるが、成人後にはその割合の変化は少ない。
2)1日の全睡眠時間中のノンレム睡眠時間の割合
新生児から生後23か月の間ではノンレム睡眠の割合は増加するが、その後すこ しずつ低下する。50才以降では更に低下率が高くなる。
(5) 睡眠の個人差について
1)長時間睡眠と短時間睡眠
成人における一般的な睡眠時間は7〜8時間であるが各個人の性格、生活、習慣の相違から睡眠時間に長短が生ずる。大別して長時間睡眠 (9〜11時間)短時間睡眠(4〜6時間)としている。
鳥井鎮夫は睡眠時間と性格について、睡眠時間の個人差は性格とも関係があるようであるとしている。つまり長時間睡眠の人には内向性の人、生真面目で反省心の強い人が多く、短時間睡眠の人には外向性であまりくよくよしない悩みを持ち込まない人が多いとしている。
長時間の睡眠ではアインシュタインが有名であり、彼はバイオリンを弾きモッアルトのファンで芸術的センスに恵まれていた。芸術家肌で自分を大切にするタイプ。
短時間睡眠では、ナポレオン、エジソンが有名である。社長、猛烈社員に多いタイプ。
長時間睡眠の人、短時間睡眠の人はいずれも6〜7%あるといわれている。
また仕事がうまくいっている時などでは睡眠時間は短く、仕事がうまくいっていない時などで落ち込んでいる時は睡眠時間は長い。
職場が変って不慣れな時は睡眠時間は長くなり、慣れるにつれて睡眠時間は戻る
ようになる。
2) 就眠の時刻
朝型の人と夜型の人とがある。
朝型の人は早寝早起きで目覚めも良く、精神的にも肉体的にも午前中が充実している。就寝時刻は早い。
夜型の人は朝の目覚めが悪く、午前中は活力に乏しく午後になってから元気が出る。夜は遅くとも平気で就寝時刻は遅い。
このような違いは肉体的な相違によるものか環境の違いによるものかは明確でない。
通常体温は目覚めの少し前ごろに最低となり夕方から夜にかけて体温は上昇する。体温が最高値となる時刻は朝型は夜型よりも約1〜5時間くらい時間帯が早くなっている。
朝型の人の体温は夕方時ころに最高となり夜中の2時ころに最低となっている。夜型の人では5時間ほどのずれがあって夜11時ころが最高となる。体温の高い時は代謝も盛んで元気がよいが夜中に体温が高いと眠り難く、昼間に体温が低いと眠気がする。
これに対応するには、夜型なら夜型でもよいから、生活リズムを変えずに眠る時間特に起きる時間を一定にするとよいとしている。これによって体の方でこれに合わせていろいろな機能が順調に作動する。夜型にしたり昼型にしたりして生活リズムを変えるといろいろな故障が起きるとしている。
3)睡眠の質
一般には就寝から入眠するまでの時間と中途の目覚め回数とで安眠型と不眠型に分けられる。
安眠型は入眠までの時間が10分以内で中途の目覚めがなく、ぐっすりとよく眠る型である。朝型の人や短時間睡眠の人に多い。
不眠型は入眠までの時間が30分以上かかり、且つ中途の目覚めがある場合で、一般に眠りが浅い。また不眠型は安眠型と比較すると睡眠中の体温が高く、脈拍数も多いという。これは不眠型は交感神経の活動が安眠型よりも大きいことによる。
不眠型は夜型の人や長時間睡眠の人に多い。また、自分の睡眠タイプに合わなくても環境や職業によって合わせなければならないことも多い。

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