●形と構造
古代から現在まで長年にわたっていろいろな枕が作られ使われてきた。これらは時代、地域、民族、風俗、習慣、職業、流行、趣味、その他さまざまな違いもあって、形や構造、材質や作り方なども多様で驚くほどたくさんの種類がある。
これらの中から代表的な枕について一部写真を入れて記述する。写真は特記のないものはいずれも白崎枕コレクションの中から選んだものである。寸法については特に記入しないものは無荷重の状態での最大部分を、くくり枕付きの場合は枕付きの状態の寸法とした。
なお種類も多く全部を記載できないので詳細については「枕の博物誌」(白崎繁仁北海道新聞社)を参考にしていただければ幸いである。

(1) 日常家にあって使用する枕
詰め物枕、箱枕、組木枕、網目枕、折たたみ枕、木枕、草枕、束枕、竹枕、陶枕、石枕、皮枕、毛皮の枕、牙骨を使用した枕、金属製の枕、化学製品の枕など種類が多い。

1) 詰め物枕
昔から現在も一番多く使用されている詰め物をした枕には坊主枕(丸枕、くくり枕)平枕(洋枕)、角枕、長枕、馬蹄形枕、扇形枕、ドーナツ枕、子供用の動物を型どった枕など種類が多い。昭和の中頃までは坊主枕が主流であったが現在では平枕が多い。他の形の詰め物枕は多くはない。
坊主枕は筒形の側布(材)の中に詰め物を入れて閉じたものであり、古代から使われていた形である。
平枕は側布(材)を長方形に縫ってこれに詰め物を入れたもので中央部がふくれるので断面は紡錘形となる。
平枕でも側面にマチ布(材)を入れて高さを平均にしたものもある。
角枕は坊主枕の側布の四すみを縫い合わせて角を作り角形とする。昔は芯木を入れて角形としたものもある。
長枕は二人寝用の枕で坊主枕、平枕がある。馬蹄形枕は幼児用に多い。扇状枕は寝返りの姿勢に合わせたもの。ドーナツ枕は中国では子供の耳の形がよくなるようにと古くから使用されていた。子供用の動物枕のほかに花や魚の形のものなどがある。その他、寝返りにあわせて高さが調節できるよう中央部を低くした坊主枕、二つ折や三つ折にしたもの、詰め物入の小袋を組合わせたもの、中材の増減しやすい構造のもの、丸巻きにして高さを調節できるものなど種類は多い。

写真1 丸枕(坊主枕) 昭和初期
長さ35.0cm 幅17.0cm 高さ11.0cm
写真2  平枕(洋枕)パンヤ入り 現代
長さ55.0cm 幅37.0cm 高さ14.0cm
写真3 二つ折りの枕 現代
長さ52.0cm 幅36.0cm 高さ11.0cm
写真4 マチの入った平枕 現代
長さ55.0cm 幅35.0cm 高さ5.0〜10.0cm
2) 箱枕
昔はいろいろな箱枕が工夫され使われていたが、現在では秋田杉の箱枕や岩手県など桐材の多い地方での半丸形の枕など、地方の特産品として一部で作られている程度である。
角形(四角形)、多角形(六角形など)、安土形(矢場の標的を置く安土に似ているのでこの名がある)、半丸形などがある。底面が平らな平底形、丸みがあって左右にゆれる船底形などがあり、角形には底板のついたもの、物入れの引出しのついたものなど江戸〜明治時代にはさまざまな形のものあった。
江戸時代には髷があったので男女とも使ったが、明治4年(1871年)の断髪令以降は男は坊主枕となったので日本髪の女子が使う程度となった。上部の頚の当るところにくくり小枕を付けたものが多い。
写真5 角形 平底型 江戸 横引出し   写真6 安土形 平底型 江戸〜明治
長さ21.0cm 幅 7.2cm 高さ17.5cm  長さ28.5cm 幅11.0cm 高さ19.0cm
写真7  半丸形 昭和         写真8 安土形 船底型 江戸〜明治
長さ28.0cm 幅16.0cm 高さ 7.5cm   長さ21.0cm 幅 9.5cm 高さ18.0cm
3) 組み木枕
木や竹などを組み木にして作られた枕で、木と木、木と竹、木と藤、木と皮、木と陶器など組み合わせはさまざまである。これも昔はよく使われた形式ではあるが、くくり小枕をつけたものが多い。現在は地方の特産品として作られている程度である。
写真9  キリ材製 現代        写真10 ヒバ材製 豆形 現代
長さ23.0cm 幅 9.0cm 高さ 8.0cm  長さ21.5cm 幅10.0cm 高さ10.2cm
                             (中央部)
写真11 ケヤキ材製 鼓形 江戸    写真12 木と竹 現代
径 12.0cm 高さ 11.8cm        長さ31.0cm 幅12.7cm 高さ 8.0cm
写真13 木と竹 大正         写真14 蒔絵入 江戸 
長さ26.0cm 幅11.5cm 高さ12.0cm  長さ23.5cm 幅17.5cm 高さ18.0cm
4) 網目枕
籐製品の枕が多く、昔から夏用の枕として愛用する人も多い。現在では輸入品が多い。丸形、角形、半丸形、楕円形など長短さまざまな形がある。他に竹、木、陶器、金属製や複数の材料を組合わせた網目枕もあるが数は少ない。
写真15 丸形 籐製 現代       写真16 半丸形 籐製 明治 
長さ23.0cm 幅13.0cm 高さ14.0cm   長さ24.0cm 幅13.0cm 高さ14.0cm
写真17 平形 籐製 現代       写真18 角形 籐製 昭和 
長さ34.5cm 幅15.4cm 高さ 6.0cm   長さ21.5cm 幅15.0cm 高さ10.0cm
写真19 籐と木 大正         写真20 金属・ビニール製 昭和
長さ25.5cm 幅11.0cm 高さ12.0cm   長さ29.8cm 幅11.2cm 高さ12.5cm
5) 木枕
古くから使われた材料であり、形も多い。丸形、半丸形、臼形、鼓形、角形、撥形(三味線の撥の形をした枕)、安土形、豆形、長形などがあったが、現在では地方の特産材料を使った特産品として作られている程度である。青森県のヒバ枕、岩手県の桐枕などがある。
外国ではさまざまな木枕を見ることができるし、形もいろいろなものがある。
写真21 丸形             写真22 半丸形 通気の穴がある 昭和
長さ20.0cm 幅11.0cm 高さ5.5cm   長さ24.0cm 幅10.0cm 高さ7.5cm
写真23 角形 江戸          写真24 安土形
長さ15.3cm 幅12.5cm 高さ12.5cm   長さ19.6cm 幅10.0cm 高さ10.0cm
写真25 撥形 江戸          写真26 鼓形 年代不詳
長さ18.7cm 幅11.7cm 高さ20.0cm   径11.7cm  高さ11.7cm
6) 陶枕
陶器の枕にも形の種類は多い。角形、丸形、豆形、半丸形、船形、人や動 物、植物を形としたものなどがある。夏用として現在も使われている。
写真27 角形 昭和初期        写真28 豆形 昭和初期
長さ14.2cm 幅6.3cm 高さ12.9cm   長さ20.0cm 幅10.2cm 高さ7.4cm
                                (中央部)
写真29 童子形 現代         写真30 動物形  年代不詳(中国)
長さ28.5cm 幅13.5cm 高さ9.4cm   長さ34.7cm 幅14.0cm 高さ15.0cm
           (中央部)              (中央部)
7) 趣味の枕
風俗や個人の趣味によって作られた枕には自然の木、石、竹の形の変 わったものを利用したり、造形美を考えて作ったものなどの趣味の枕が あるが一般的に使われているものではない。
写真31 亀の木枕 昭和         写真32 自然木(エチオピア)
長さ35.7cm 幅11.2cm 高さ8.4cm    長さ23.4cm 幅14.2cm 高さ16.1cm
           (中央部)
(2) 携帯用枕(旅行用枕、旅枕、道中枕、物入れ枕)
旅行の時に持参する枕、職業上持ち運ぶ枕、非常持出しの貴重品を入れておく枕、道具入れの枕などがある。

1) 小型化した枕
これまでの枕を小型にして携帯しやすくした枕で携帯用としては初期から使用された型で木枕や箱枕が多い。
写真33 箱枕 角形 江戸〜大正    写真34 箱枕 安土形 江戸〜大正
長さ14.5cm 幅6.4cm 高さ9.2cm   長さ10.5cm 幅上4.0cm 高さ13.4cm

                          下 7.0cm
2) 折りたたみ枕
折りたたんで小さく出来る枕で、組み立てた時の形もX形、Z形、口 形、鳥居形、台形など種類が多く、材質も木、竹、鉄、角、クジラのひげなどがある。
写真35 木製 X形 組み立て時    写真36 折りたたみ時 岐阜県 現代
長さ32.2cm 幅8.0cm 高さ10.0cm   長さ27.8cm 幅8.0cm 高さ5.4cm
写真37 木製 台形 組み立て時    写真38 折りたたみ時
長さ11.5cm 幅8.5cm 高さ12.0cm   長さ14.0cm 幅11.5cm 高さ4.0cm
写真39 木製 Z形 組み立て時    写真40 折りたたみ時
長さ14.0cm 幅4.0cm 高さ12.4cm   長さ18.3cm 幅4.0cm 高さ4.5cm
写真41 竹製 Z形  鳥取県 現代  写真42 木製      沖縄 現代
組み立て時              組み立て時
長さ15.0cm 幅5.2cm 高さ10.0cm   長さ26.0cm 幅9.0cm 高さ7.0cm
折りたたみ時             折りたたみ時     (中央部)
長さ16.3cm 幅5.2cm 高さ5.4cm   長さ26.0cm 幅9.0cm 高さ3.5cm
写真43 クジラのひげ製 組み立て時  写真44 折りたたみ時  江戸〜明治
長さ11.5cm 幅6.7cm 高さ12.0cm   長さ15.0cm 幅6.7cm 高さ2.9cm
クジラのひげは丈夫で軽く弾力もあるので珍重された。
写真45 鉄製 組み立て時       写真46 折りたたみ時  明治〜大正
長さ18.0cm 幅7.5cm 高さ17.0cm   長さ18.0cm 幅7.5cm 高さ8.5cm
3) 組み立て枕
分解可能な枕で、くくり枕がつけられるが、分解や組み立てに時間が かかることもあって使用例は少ない。(江戸〜明治)
写真47 組み立てた時         写真48 分解した時
長さ24.0cm 幅9.5cm 高さ17.5cm   長さ24.0cm 幅9.5cm 高さ11.0cm
4)空気枕
携帯時には空気を抜いてたたむとポケットに入るほど小さくなり、軽 くて丈夫である。昔も今も使われている。ゴム張り布やビニール製のも のなどが主で形も角形、円形、馬蹄形、巻きたたみ形などがある。
写真49 角形 ゴム張り布側製 現代  写真50 馬蹄形 ビニール張り側製 現代
長さ40.0cm 幅27.0cm 高さ8.5cm   長さ34.0cm 幅23.0cm 高さ8.0cm
5)枕兼用の物入れ
職業用、作業用、生活用具兼用として作られたので主要目的が物入れなどで大型のものが多い。
写真51 沖枕 漁具入れ 北海道 大正  写真52 箱枕(枕箱) 漁具入れ                        神奈川県 年代不詳
長さ30.0cm 幅12.4cm 高さ11.8cm   長さ27.0cm 幅12.0cm 高さ13.1cm
写真53 プゾー(フゾウ、フジョー)  写真54 煙草入れ兼用枕  産地不詳
     煙草、小物入れ   沖縄
長さ15.1cm 幅 8.8cm 高さ10.8cm   長さ14.4cm 幅6.8cm 高さ8.5cm
           (中央部)        (中央部) (中央部)
写真55 枕たんす皮張り 江戸     写真56 枕たんす皮張り(中国) 現代
横開き 引き出し2段 錠つき     上開き 皮製中箱 錠つき
長さ40.0cm 幅15.3cm 高さ17.0cm   長さ52.6cm 幅14.2cm 高さ15.5cm

非常持出し用の貴重品を収納するので、丈夫で、投げ出されても破損し難い皮製が多い。大型でうるし塗、紋様入りなどがある。錠つきが多い。
写真57 旅枕(道中枕) 江戸     写真58 旅枕(道中枕) 江戸
引き出し2段 上段は隠し戸つき    引き出し2段 隠し戸つき
長さ17.7cm 幅8.5cm 高さ12.1cm   長さ20.4cm 幅7.0cm 高さ12.0cm
           (中央部)
写真59 ポンスオプ(小さな箱)の    写真60 旅枕(道中枕)
   アイヌの箱枕クルミ材上ぶた     ソロバン、アンドン、筆記具な
   ひも蝶つがい             どを入れた枕
長さ40.0cm 幅11.8cm               写真 芦垣慶一氏 提供
高さ(中央部)9.8cm(両端部)11.4cm
上部両端傾斜部各々11.0cmで底部以外  は全部にアイヌ紋様の彫刻がある。
         藤谷憲幸氏 制作
(3) 保健枕(健康枕)
枕は快適な睡眠を得るために工夫され作られているので広義にはすべての枕が保健枕ということができるが、ここでは特定された保健目的を持った枕について記述する。
自分に合った高さに調節できる枕、マッサージ効果を期待した枕、磁器を組み込んだ枕、保冷枕、香枕、生薬枕、ハーブ枕、頭頚部の圧力を平均化した枕、いびき防止枕、幼児の頭部矯正枕、入眠装置付の枕などがある。

1) 高さ調節枕
ギァ式に高さを調節するもの、中材の増減を容易にしたもの、中材入りの小袋を増減するもの、中材パッキン材との組み合わせによるもの、 巻枕によるものなどがある。
写真61 組み木高さ調節枕 ギァ式   写真62 中材パッキン材との組合わせ
    岐阜県 現代              現代
長さ14.5cm 幅14.5cm 高さ12.7〜18.0cm 長さ55.0cm 幅36.0cm 高さ 3.010.0cm
写真63 中材の増減を容易にした取り  写真64 ソバ入り平枕
   出し口をつけたもの   現代  長さ40.0cm 幅30.0cm 高さ8.0cm
                              (中央部)
2) 指圧枕
肩・首・頭などの凝りは多くの人が経験する悩みである。これを眠ってい間に予防したり、治したりしようという枕である。
写真65 陶枕 指圧枕         写真66 陶枕 指圧枕
長さ18.0cm 幅10.0cm 高さ7.0cm   長さ20.5cm 幅10.5cm 高さ7.0cm
           (中央部)              (中央部)
写真67 組み木枕 現代        写真68 玉石枕掛 (中国) 現代
長さ30.0cm 幅14.5cm 高さ9.2cm   長さ36.0cm 幅22.0cm 高さ1.8cm
3) 保冷枕
写真69 水枕 ゴム製 現代      写真70 水枕 陶製 昭和
長さ48.0cm 幅21.0cm        長さ23.2cm 幅10.5cm 高さ11.4cm
写真71 水枕 鉄製 年代不詳     写真72 水冷枕 プラスチック製 現代
長さ14.5cm 幅14.0cm 高さ22.0cm   長さ34.0cm 幅21.0cm 高さ6.5cm
中央部の高さ10.0cm〜15.0cm(調節可能)
4) 香 枕
写真73 陶香枕 現代         写真74 陶香枕
長さ29.4cm 幅13.0cm 高さ9.5cm   長さ20.8cm 幅11.6cm 高さ7.4cm
                              (中央部)
5) 生薬枕
写真75 抗衰老薬枕(中国 上海)   写真76 黄氏老年降圧枕(中国 内蒙古)
               現代                 現代
6) 磁器枕 
写真77 鉄製 磁器入り 現代     写真78 磁器入り枕 現代
     21.0×15.0×7.0(中央部)       48.0×34.0×10.0
(4) その他
写真79 いびき防止枕用マット     写真80 抱き枕
                       140.0×35.0×22.0
写真81 足枕 現代          写真82 腰枕
    65.0×50.0×10.0           39.0×21.0× 7.0
写真83 詰め物材の展示        写真84 昔の枕の展示

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