●香り物質の作用
香り物質から揮発した香りの粒子が鼻腔の上甲介骨の奥の嗅裂に入り、そこの臭覚神経を刺激して電気的インパレス(信号)を起こして脳中枢に感覚を作らせる。この感覚が臭覚となる。
(1) 臭覚の特徴
臭覚の特徴として次のことがあげられる。
○同じ濃度の香りでも最初に嗅いだ時の香りが一番強く感じるが、同じ香りを長い時間嗅いでいると臭覚はその香りに対して鈍感となる。
○同じ香りでも濃度によって異なる感じを受けることがある。
悪臭と感じた香りが、香り物質を稀薄にすることによって快い香りとなることなどである。
○同じ香りでも個人差があって、人によって反対の反応を示すことがある。
(2) 催眠と覚醒
香りが睡眠環境の向上に利用されることも多く効果についての報告も多い。
1)島田和則ほかの研究報告1987年日本公衆衛生学会)では疲労度に及ぼす影響
○実験方法
被験者・・・合宿研修中の女性80名を4グループに分けた。
第1グループ  夜に入眠促進の香り    22名
        朝に覚醒の香り
第2グループ  夜に入眠促進の香り    18名
第3グループ  朝に覚醒の香り      17名
第4グループ  香りなし         23名
供試料・・・入眠促進にラベンダー、カモミールを使用
      覚醒にペパーミント、バジルを使用
期 間・・・4日間
測 定・・・フリッカー値及び自覚症状による
成 績・・・香りを使用した第1〜第3グループは、使用しない第4グループに比べフリッカー値の増加、疲労の自覚症状の訴えの減少が認められ、第1、第2グループでは特に大きい。
 
2) 鳥井鎮夫の報文(フレグランス・ジャーナル No.86. 1987 )
前頭葉は注意、期待、動機づけなどの精神活動の場で、心の動きに対して前頭葉の脳波は敏感なので、香りの興奮効果と鎮静効果について前頭葉の脳波CNV(期待波)を測定している。
ジャスミンを嗅いだ時はCNVが大きくなる。すなわち期待の度合いが強くなる。これは前頭葉の脳細胞の働きの高まりであり、ラベンダーの場合はCNVが抑えられる。前頭葉の脳細胞の働きが弱められていることであるとしている。
各種の精油について嗅いだ時のCNVの大きさを精油なしの場合を100とし、100以下が鎮静、100以上を興奮作用として図示している。興奮効果のあるものはバジル、クローブ、ネロリ、ペパーミント、ローズ、イラン・イランであり、鎮静効果はカモミール、レモン、サンダルウッドとなっている。
しかし精油によっては変化の方向が濃度や個体差によって必ずしも一定しないこともあるとしてゲラニウムを試料としての試験では至適濃度で興奮状態を示し、それ以外の濃度では逆の効果を示し、至適濃度には個体差があるようであるとしている。
(3) 殺菌性、抗菌性
古代エジプトの時代ではミイラの保存のために樹脂類や香料を入れて脱水前に死体が腐敗することを防いだといわれている。
香りの殺菌性や抗菌性については市販の殺菌剤や抗菌剤と比べると微弱ではあるが、合成剤と比べて天然の香りは安全性の点からも注目されてもよいものである。
黄色ブドウ状球菌、大腸菌、キャンディダ属酵母、ジフテリア菌などに対する測定がある。
江戸時代以前からあった香枕が、頭髪に香りをたき込めるために使用されてきたが、香りを楽しみながら頭髪が不潔になることへの防止にも役立っていたものと思われる。

(4) 防虫性
1)木材の香りの防虫性
各種木材のニオイに対するダニの回避行動について安藤善朗の実験報告(日本公衛誌40巻7号平成5年)がある。
○実験方法
供試木材製材加工したヒノキ、マツ(アカマツ)、スギ、ラワン(メンチラ)、スプルス(シトカトウヒ)の木屑ダニケナガコナダニ、コナヒョウダニ、ヤケヒョウダニ
実験・白色不透明のプラスチック製の観察台(タテ20?、ヨコ40?)の中央部に線を引き、右側の中心部に木屑0.02gを置き、中央部の線上にダニ25匹を放置して右側と左側領域おけるダニの経時的な分布状態を調べた。
雌雄別に実施温度19〜23℃、室内湿度26〜60%、観察台上は加湿器を使用して湿度約80%とする。
成績・?木材のニオイ種類別のダニ忌避作用はヒノキ、マツ、スギは強く、ラワン、スプルスは弱い。
?ヒョウダニ類はケナガコナダニよりも木材のニオイに対して忌避行動が強い。
?雌雄間では有意な差は認められない。
表28 各種木材に対するダニの忌避行動経時的観察報告(安藤善朗)
これらの相違は各々の木材に含有する成分の相違による。

■供試木材の含有成分
ヒノキ β−ピネン、カンファー、カジネン、カジノール、
ヒノキオールなど
ス ギ β−オイデスモール、カジネン、α−ピネン、シペテン、スギオールなど
マツ(アカマツ) α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、カンファー、
カジネンなど
ラワン シネオール、α,βーツョン、シトロラール、
カジネンなど
スプルス
(シトカトウヒ)
アセトバニリン、バニリン、バニリルアルコール、
カラジェン、オクチルフタレートなど

カンファー、シネオールは防虫剤として利用されている。

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