白崎枕コレクション1,000余点に
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写真 古枕散歩
白崎繊維工業株式会社 研究室  白崎繁仁

 

第8回 香料

【 香 料 】

 人の生活と香りとの関係は古くて深い。1960年にイラク北部のトルコとの国境近くで発見されたネアンデルタール人の化石骨のまわりで8種類の花粉が見つかっており、これは6万年以前に死者に花を手向けた時のものといわれている。当時の人が美しさと香りの防腐殺菌作用を利用したものと思われる。古代エジプトの時代の眠りを誘う香りの処方が、今、なお、参考処方とされている。
日本ではいつの時代からか不明だが、桃山時代には既に利用されている。
 香りは揮発性物質が鼻腔の天井部分にある200万個ともいわれている嗅細胞を刺激した時に感ずる。古来から鼻腔はかりでなく呼吸器、皮膚を通して香気成分の薬効や、快い香りを利用してきた。

1.香
 用途によって以下の種類がある。
香 木:白檀、沈香類の香木を刻んで使用。一般に良質の香木が使用される。
線 香:香りを長く持たせるために、香材タブノキ(クスノキ科)の皮などをつなぎ材として練り、棒状、渦巻状にしたもので種類が多い。
ねり香:香木や香料を粉末にして、これに炭の粉や蜂蜜等を混ぜ練り固めたもの。
塗 香:香木や香料を粉末にしたもの。長時間の芳香剤として塗布。
焼 香:香木、香料を細かく刻んで混合したもので材料の種類、配合によって多くの種類がある。
匂 香:白檀、沈香、竜脳、薬草顆を刻んだもの。

2.沈 香(別名 沈水香、沈水、伽羅)
 熱帯雨林の主にアキラリア属やコツスチラ属などの常緑樹にできる樹脂、水より重いので沈水の名がある。樹脂が少ないと 木は水に浮くので浅香と呼ばれ価値は下がる。
(産地)インド、ミャンマー、ベトナム、タイ、マレー半島、ジャワ、スマトラ、中国南部など。
(成分)樹脂40〜50%、樹脂にはベンゾールアセトン、高級テルペン、アルコール、その他がある。
(香り)高貴な甘い香り、沈丁花(チンチョウゲ科)の甘い香りは沈香と丁字の混じった香りなのでこの名がある。
(薬効)昔は媚薬として使用され、薫香料としては鎮静、鎮痛、強心作用があるとされた。

3.安息香(別名 べイソン)(エゴノキ科)
 樹脂に傷をつけて分泌した樹脂を採取する。分泌液は乳白色だが、空気中に放置されて赤褐色の塊状となる。
(産地)タイ、ラオス、カンボジア、ベトナム
(成分)樹脂70〜80%、樹脂成分は安息香酸、桂皮酸、桂皮アルデヒド、バニリン、安息香酸べンジル(エステル)ほか。但し産地によって主成分に差がある。
(香り)バニラの甘い香り。
(薬効)香料、鎮静、鎮痛、消毒、利尿作用。

4.白 檀(別名 センダン、サンダルウッド)(ビャクダン科)香料としては幹と根が珍重される。心材には香気が多い。
(産地)インド南部、インドネシアのチモール島、太平洋諸島、ニュージランドなど。
(成分)樹脂3〜4.5%の精油、精油成分はサンタノール(90%)ボルネオール、イソヴァレルアルデヒド、サンタレン、サンタルオール、その他。
(香り)幽艶な香りで持続性がある。
(薬効)香料、鎮静、消炎、利尿、強壮、消毒作用。

5.木 香
青木香:ウマノスズクサ(ウマノスズクサ科、別名 馬の鈴草)
川木香:キク科植物の根
土木香:キク科植物の根
唐木香:モッコウバラの根
(産地)インドヒマラヤ地方、中国など。
(成分)根からとった精油に芳香性がある。
(香り)スミレ、アイリスに似た香り。
(薬効)香料、健胃、防虫、消毒作用。

6.麝 香(ムスク)
 磨香鹿(シカ科)の雄の生殖腺からの分泌物。
(産地)ヒマラヤ、シベリア、中央アジア、チベット、アッサム、サハリン、朝鮮半島。
(成分)香木成分ムスコン。
(香り)官能的な香り。
(薬効)覚醒剤、媚薬として昔は使われたが実効は不明。
 
7.霊猫香(シベット)
 麝香猫(ジャコウネコ科)の雌雄とも肛門近くにある分泌腺からの分泌物シベットを採取する。
(香り)麝香に似た香り。
(薬効)使用例少なく実効は不明。

8.竜涎香(アンバーグリース)
 抹香鯨(マッコウクジラ科)の腸内にできる病的な結石。
(産地)抹香鯨の生息地帯は、北緯50度、南緯50度との間の暖流域。
(成分)アンプレイン、オキサイド、オキシアルデヒド、ケトン他。
(香り)官能的な香り。

9.麝香鼠(ムスクジバタ)
 北アメリカの沼沢地に住む麝香鼠の腺嚢にある脂肪性の液状物。
(香り)ムスク、シベットに似ている。

10.海狸香(カストリウム)
 ビーバーの雌、雄の生殖器にあるポッドとその分泌物。

11.貝 香(バイ貝の一種)
 中国南海、紅海にいる巻貝のふたからとる香料で主に保香剤として使われる。

12.アスナロ(別名 ヒバ、アスヒ、シロビ、アスハノキ、ヒノキアスナロ、ヒノキ科の常緑樹)
(成分)0.5〜0.7%の精油中、セスキテルペン(ツヨブセン)67%、セスキテルペンアルコール24%ほか
(薬効)香り、防菌、防黴、防虫作用

13.ヒノキ(ヒノキ科の常緑樹)
(産地)本州各地。
(成分)精油1.0%、精油中ガジネン、・βーピネン、ガジノール、ヒノキオールほか
(薬効)香料、防菌、防黴、防虫作用。

14.ス ギ(スギ科の常緑樹)
(産地)本州各地。
(成分)βーオイデスモール、カジネン、αーピネン、ジペテン、スギオールほか
(薬効)香料、防菌、防黴、防虫作用。

15.アカマツ(マツ科、別名 メマツ)
(産地)日本各地。
(成分)α−ピネン、β−ピネン、ジペテン、カンファー、カジネンほか
(薬効)香料、防菌、防黴、防虫作用。

16.香 草(ハーブ)
 香りの作用は種類や濃淡、作用時間などで個人差があり、時には逆な現象があったりするが睡眠環境改善のためにも、これからの研究に期待されることが多い。それぞれのハーブには特徴ある香りがあるが、薬効について大別すると次のとおり。
(1)催眠作用のあるもの
 ラベンダー、カモミール、レモン。
(2)鎮静作用(興奮を鎮める作用)
 安息香(ベイゾイン)、イランイラン、レモン、オレンジ、カモミール、クラリセージ、サンダルウッド(ビャクダン)、シダーウッド、デイル、乳香、ネロリ、バラ、ベルガモット、ラベンダー、ローズマリー、ペパーミント、バジル、ジャスミン、ナツメブ、シナモンなど
(3)鎮痛作用(痛みを和らげる作用)
 カモミール、ジンジャー、バジル、マージョラム、ラベンダー、オレンジ、レモン、ベルガモット、ローズマリー、ペパーミントなど
(4)抗うつ作用(気分を明るく高める作用)
 ゼラニウム、ネロリ、バジル、ベルガモツト、ジャスミン、など
(5)強肝作用(肝臓と胆のうの機能をよくする作用)
  カモミール、セージ、バラ、ペパーミント、ローズマリー、菊花。
(6)解熱作用
 カモミール、ジンジャー、バジル、ベルガモットなど
(7)強壮作用(体の機能をよくする作用)
 カモミール、ガーリック、クライセージ、ジンジャー、セージ、ゼラニウム、タイム、ネロリ、バジル、バラ、ベルガモット、マージョラム、メリッサ、レモングラス、ローズマリー、ローレルなど
(8)消毒作用(感染防止をする作用)
 イランイラン、カモミール、キャラウエー、クラリセージ、シナモン、ジャスミン、ジンジャー、ラベンダー、セージ、ゼラニウム、タイム、ネロリ、バジル、バラ、ペバーミント、ベルガモット、マージョラム、ヤロウ、レモングラス、ローズマリー、ローレルなど
 その他強心、強脾、血圧降下、血圧上昇、唾液分泌、鎮咳等の作用のある精油成分についての研究報がある。